今日、紹介するのは、昨年6月に刊行された『女相撲☆どすこい巡業中!』。
じつに興味深く面白い作品だった。
作者は「漫画の手帖」の「21世紀通信」などで知られる堀内満里子。
「女相撲」に関して私は何も知らないが、古くから神事としてあったらしく、
江戸時代中頃からは興行として流行したらしい。
明治期には上半身裸であったり、一時期人気となった盲目男性との取り組みだったりが禁止され、
薄い肉襦袢を身に付け猿股を穿くようになったという。
大正期にはそれぞれ小規模の一座が幾つかあり、興行として地方を巡業しており、
昭和30年代頃まで存在したという。
実際には女力士たちの余興の舞踊やサーカスのような曲芸が主となっていったようだが、
「相撲」と謳っているからには女力士同士の取り組みがなくなったわけではないだろう。
「女相撲」というと猥雑な見世物興行のようにイメージしてしまうが、
庶民の娯楽が少ない時代にあって、
人々が楽しみにしていた娯楽の一つであったという面が強いのかも知れない。
驚いたことに昭和30年代を知っている私であっても、
「女相撲」は聞いたことがなかったが、
地方の町では小規模なサーカスや演劇などの巡業興行が、たまに開催され、
それを報せるチンドン屋などがビラを撒きながら、町を練り歩いていたものだ。
この作品は大正期を舞台に、女相撲興行の一座を描く。
第1話で、新人力士と少年たちとの交流を通して、
いかがわしいと思われてもいる女相撲の健全性と娯楽性を示し、
作者の描こうとする「女相撲」を明らかにしている。
そして2話以降は、様々な事情からその世界に身を投じることになる「女」たちの物語が、
順に時間を遡って描かれるが、本来転落したはずの「女」にとって「相撲」が希望になっている。
その中に炭鉱婦や女馬賊の物語まで描かれているのは、作者の時代への幅広い興味が窺える。
実際には「女相撲」が必ずしも「希望の地」というわけでもないのだろうが、
救われる女たちの話になっているので、読後感がよい。
そして、おそらく誰が描いてもエロを抜きには描けないのではないかと思われるところを、
いい意味でまったくエロの要素がないので、純粋に人間ドラマを楽しめた。