
『11人いる!』は萩尾望都の『ポーの一族』『トーマの心臓』と並ぶ初期の代表作といえる。「別冊少女コミック」に1975年に3か月連載した120ページ程度の作品だが、私は当時、その完成度の高さを知って、一番好きな萩尾作品になった。というより、まだ『ポーの一族』などは読んでおらず、この作品から萩尾作品にはまったのかも知れない。その辺の事情は忘れてしまった。
宇宙大学国の最終テストに残った700人の受験生が10人ずつ70のチームに分かれ、実技テストを受けるが、その最初に組まれたチームの物語。10人は、漂泊中と仮定した巨大な宇宙船に乗り込み、協調性をテストされる。宇宙船は実際にエンジンが壊れて星の周りを回っており、一周する53日間が試験期間となる。皆で協力してトラブルを乗り越え、一人でも落伍者が出た場合は全員失格。また、スクランブル発生の場合のみ非常ボタンを押せるが、それ以外は一切のコンタクトは不可能である。だが、10人がその宇宙船・白号に乗り込んだとき、受験生が11人いることに気づいた。
萩尾望都はこの作品を、小学生の頃読んだ宮沢賢治の『ざしき童子のはなし』の中の、遊んでいた10人の子供たちがいつの間にか11人になっているというエピソードをヒントにしたと述べている。宇宙船内の実技テストで10人のはずの受験生が11人いる。だれが何の目的で何をするために紛れ込んだのか、その1人を探そうとして疑心暗鬼になるミステリアスな展開に惹き込まれる。
私はこの作品の、物語の世界の背景・設定が綿密に作られていることに驚いた。たとえば、宇宙大学の最終テストが漂泊船で行なわれ、各星系から受験生が参加する、といった程度の説明でも、物語は成立するし十分に楽しめると思う。しかし、作者は物語の背景を詳しく設定している。
地球でワープ航法と半重力が発見され宇宙旅行が驚異的に発展し、200年の間に地球は51の植民惑星を持つようになるが、地球連邦政府と自治を望む惑星移民との間では小競り合いが絶えなかった。だが、異星人の存在を知ると、地球人は団結して連邦と51の植民惑星とで統合政府・テラを発足させる。やがて、テラは、ロタ、セグル、サバの3大国とその他の小さな星々からなる星間連盟に加入する。400年後にはテラは3大国に続く強国となり、人口はテラ、サバ、セグル、ロタの順に多い。異星人との結婚もロタ系以外は可能で、テラ系人が最も類似しているサバ系人とはライバル意識も強い。最も強国のロタ系人は特殊な宗教下にあるため交易自体も難しい。
初めにおおよそこのような背景情報が語られ、作中でもいろいろと情報が追加される。物語を読む上で必要な情報はもちろんあるが、私には情報が過剰で、作者の趣味にすぎないような情報も多いように思えた。
たとえばロタ系人について、国力は強いが人口は少なく他系人と交配は不可能で、特殊な宗教下にあると説明があるのに、作中にロタ系人はまったく登場しない。
11人の登場人物のうち、4人はテラ系で4人はサバ系だが、同じ星出身はいない。他にセグル系が1人いて、星系に属さない別の辺境惑星の出身者が2人いる。これらの人物に出身星系の背景情報が投影されてキャラクターに深みを増すのはわかる。だが、登場しないロタ系人までわざわざ設定する必要があるのかと思ったのだ。もちろん作者の中では必要だったのだろう。この宇宙には、多くの星系人が入学を競う大学に距離を置き、大学とは別の(たとえば宗教の)価値観を重視する星系人が最強として存在する、という世界観のほうが先にあったのかも知れない。
やがて星間連盟はロタ系の宗教的権威に侵食され、宇宙大学国の自治すら危うくなるが、『11人いる!』に登場したメンバーたちが結束してそれぞれ出身の星系や惑星において抵抗し、ロタ系との分離独立に成功するなどといった未来史まで妄想できるが、個人的にはロタ系人が登場する続編を読んでみたかった。
『11人いる!』を私が初めて読んだのは小学館文庫で、初出の「別冊少女コミック」は見たことがない。それで、以前から気になっていたことがある。収録本を初出から整理してみよう。
(初出)「別冊少女コミック」1975年9~11月号連載
(1)小学館文庫『11人いる!』1976年7月20日刊(奥付)
(2)「萩尾望都作品集・13巻」『11人いる!』1978年5月10日刊(奥付)
(3)「プチフラワーコミックス・スペシャル」『萩尾望都スペースワンダー 11人いる!』1986年11月15日刊(奥付)※アニメ映画化記念
(4)「萩尾望都Perfect Selection3」『11人いる!』2007年8月29日刊(奥付)
(3)は続編の『東の地平 西の永遠』も収録され、初出と同じB5判で雑誌掲載時のカラーページをすべて再現している。ただし扉絵の位置などオリジナルと異なるページが若干ある。描き下ろしポスター2面も付き、上の図版はそのポスター1枚の複製原画をスキャンしたもの。
(4)は続編以外にも番外編『タダとフロルのスペースストリート』も収録。扉絵もカラーページも連載時のまま再現。ただし判型はA5判。
で、私の疑問は、何を見ても「別冊少女コミック」に75年の9~11月号に連載と書いてあるが、内容的には「61ページ×2」つまり2回連載のように見える。連載時のまま収録した(4)でも扉絵は2枚しかない。私は「別冊少女コミック」を確認していないのでわからないのだが、本当に3か月にわたって連載したのだろうか。あるいは前後編の2か月連載の予定だったが、作者の都合で後編を描き切れず、10月号に後編は途中まで掲載し、11月号に残りを扉絵なしで掲載したとでもいう事情があるのだろうか。ご存知の方がいたら、ぜひ教えてほしい。どうでもいいことなのだが、昔から気になっていたので(笑)。