ごろねこの本棚【20】(1)

  • ごろねこ
  • 2020/08/15 (Sat) 22:12:48
『あめん坊(1)』(平川やすし)
東邦図書出版社・1963年3月5日刊・A5判ハードカバー

『あめん坊』は「少年画報」1960年4月号から63年12月号に連載した。平川はその前(56年8月から60年3月号まで)に『金星金太』という江戸時代を舞台にした相撲まんがを描いており、それに続いての相撲まんがだが、こちらは現代の角界を舞台にしたユーモアまんがだった。詳しくはサイト内の「平川やすしファンクラブ」を見てほしい。ちょうど若乃花、朝潮、柏戸、大鵬が活躍していた頃で、あめん坊は柏戸の付人にもなる。弱小の朝風部屋の力士で、相撲学校を卒業し、ようやく番付に名前が載ったところだ。私は、とくに相撲に興味があったわけでもないのに、なぜこのまんがが好きだったのかは覚えていないが、あめん坊のキャラを面白く思ったのだろう。記憶にある限りでは、私が一番最初に好きになったまんがは、『鉄腕アトム』でもなく『鉄人28号』でもなく、『あめん坊』だった。
じつは一つ疑問があり、この第1巻とは違う表紙の第1巻を見たことがあり、この第1巻とは違う始まり方をしていたと記憶しているのだが、それは東邦図書出版の前にきんらん社から刊行されていたとわかった。もしかしたら収録話はダブっていなく、きんらん社版(全3巻?)の続きが東邦版(全3巻?)なのかも知れない。ファンクラブに載せた画像のうち1巻と3巻が東邦版で、カバーなしの2巻がきんらん社版である。いずれ購入したら訂正しようと思っていたが、その後、まったく購入できていない。

ごろねこの本棚【20】(2)

  • ごろねこ
  • 2020/08/16 (Sun) 22:08:11
『仔鹿物語(上)』(漫画・さいとうあきら、原作・ローリングス、訳・大久保康雄)
東邦図書出版社・1963年1月20日刊・A5判ハードカバー

平川やすし作品は『あめん坊』以後見る機会がなくなり、平川やすしもまんが界からいなくなってしまった。どういうまんが家だったのかという情報もまったく知ることがなかったが、「まんだらけZENBU」に斎藤あきらが描く『漫画仕事人参上!!』の2014年から「平川やすし先生編」が始まり、まんが家だった平川やすしを知る貴重な資料となった。それはともかく、斎藤あきらは、杉浦茂・高野よしてる・手塚治虫・横山光輝・赤塚不二夫など錚錚たる作家の作品を手伝っていた漫画仕事人だったが、もちろん自分の作品も描いていた。初期の代表作はラジオ・ドラマ『一丁目一番地』のまんが化だが、持っていないので、『仔鹿物語』を挙げておこう。この作品はグレゴリー・ペック主演の46年の映画が有名だが、邦題のイメージとは違って、原題『The Yearling』は動物が1年経って大人になることを指し、小鹿が大人になり、小鹿と出会った少年もまた大人になる物語である。残念ながら(上)だけで(下)は刊行されなかった。

ごろねこの本棚【20】(3)

  • ごろねこ
  • 2020/08/17 (Mon) 22:10:06
『幻術1964』(長谷邦夫)
曙出版・1964年1月18日刊・A5判

長谷邦夫にも「漫画仕事人」といったイメージがある。1965年に赤塚不二夫とフジオ・プロを作り、赤塚のブレーンにしてアシスタント、マネージャーにしてゴーストライターであったらしい。フジオ・プロに参加しても自身の作品(とくにパロディ作品)は発表していたが、その前は曙出版で活躍していた。私には「現代忍者シリーズ」という全10作の作品が印象深い。1巻『忍者1964』と2巻『幻術1964』は前後編となっており、このシリーズのキモである。『忍者』では伊賀忍者・一風軒が4百年の冬眠から目覚める。彼は幻術師の「死人ゲシ」によって生き延びたが、不老不死になるためには人間の生血が必要だった。一方、幻術師は生血を必要としない完全な不老不死の体を得ており、一風軒は大学教授の志野田と共に死人ゲシの秘密を追う。だが、幻術師は逃げ込んだ洞窟を爆破し、生死不明となる。そして『幻術』では、一風軒の息子同然のムササビという少年忍者も復活する。このムササビは、以後シリーズに何度も登場し、顔も名前も同じだが同一人物ではなく、違う少年を演じている。このシリーズの顔ともいうべきキャラクターである。幻術師は死人ゲシの秘密を書いた巻物をムササビに託す。その巻物をめぐって、ヤクザと昭和の忍者、さらには戦国時代から甦ったコウモリ百鬼の一族が争奪戦を繰り広げる。だが、戦いの中で一風軒とムササビは姿を消し、死人ゲシの秘密は永遠に謎となってしまう。この2巻で話は一応完結しているが、以後のSF、スリラー、忍者ものをごちゃまぜにした続巻もそれなりに楽しい。

ごろねこの本棚【20】(4)

  • ごろねこ
  • 2020/08/18 (Tue) 22:14:14
『人造少女』(鈴原研一郎)
曙出版・1966年刊・A5判

曙出版は、社長と赤塚不二夫が同郷のため赤塚全集を刊行するなど縁が深いと何かで読んだ気がするが、赤塚と親交のあった長谷邦夫もその縁から刊行点数が多かったのだろう。また、鈴原研一郎も雑誌に転向するまでは(したあとも雑誌発表作を)曙出版から多数刊行していた。「女学生ロマン」「ワールドロマン劇場」「ミステリィゾーン」などほとんどは少女まんがだが、「高校野球シリーズ」などもあった。「ごろねこ」にも書いたことだが、私は、昔、貸本で読んだロマンチックなSFまんがを断片的に記憶していて、かすかに覚えている絵のタッチは鈴原研一郎のように思えた。だが、鈴原にミステリーはあってもSF作品というのはなさそうで、探せなかった。しかし、この『人造少女』を見つけたとき、表紙を見ただけで探していた作品だとわかった。医学生の青年の前で、病院へ訪ねてきた娘が死んだ。じつは人工細胞を研究する博士の娘で、実験台として殺されたのだ。青年はその秘密を追い、娘が人造人間として蘇ったことを知る。だが博士は、実験は失敗で、人工細胞は寒さに耐えられないことを明かす。秘密を守ろうとする博士ともみ合いになり、青年は博士を殺してしまう。自首して正当防衛が認められたものの、青年は何もかもを失う。やがて娘に会いに行くが、雪の中に出てきた娘の細胞は破裂してしまう。青年は娘の亡骸を抱きかかえて山の中へ消えて行く。
今にして思えば記憶の中の物語のほうが面白かった気がするが、それでも記憶のタネとなった物語と出会えるのは、胸のつかえがおりたようで嬉しい。そして懐かしい。

ごろねこの本棚【20】(5)

  • ごろねこ
  • 2020/08/19 (Wed) 22:08:47
『殺し屋刑事』(影丸譲也)
東京トップ社・1963年頃刊・A5判

「J・影丸シリーズ」の第1巻。とくにシリーズ開始に際して作者の言葉はないのだが、わりと刺激的なタイトルにしたのは、それなりに意気込みがあったのだろう。惜しいのは話の展開が二分してしまっている点だ。前半は、巡査が強盗犯を射殺し、正当防衛だったように工作をする。巡査の父親の刑事は、息子を戒め、辞表を出すように促すが、懲罰委員会で正当防衛が認められる。だが、その後父親はある事件で犯人に殺されてしまい、巡査は刑事に出世して、立場を利用して金儲けすることを誓う。後半は、刑事になった巡査が拳銃の密売屋やその仲間と集めて、街を牛耳る二大組織を戦わせて弱らせ、新勢力にのし上がろうとする。その思惑は成功し、二大組織は壊滅するのだが……。
前半は、正当防衛をめぐる警察官としてのドラマだが、後半はヤクザ組織の抗争劇となっている。たとえば、悪人を有無を言わせず射殺し、正当防衛を装う刑事の話なら、タイトルにも合うのだが、後半は警察官としての立場は関係なく、単なる抗争劇になってしまっている。

ごろねこの本棚【20】(6)

  • ごろねこ
  • 2020/08/20 (Thu) 22:11:16
『フィリックスちゃん』(関崎志げ夫・画、K.F.S.承認済)
鈴木出版・1961年12月1日刊・A5判ハードカバー

擬人化した猫キャラの『フィリックス・ザ・キャット』はオットー・メスマー(後にジョー・オリオロ)が描き、日本の大正時代に当たる頃に生まれた。日本でも戦前から知られており、前に述べたように『のらくろ』(田河水泡)、『ネコ七先生』(島田啓三)のヒントにもなった。この関崎志げ夫版は、1960年にNHKでTV放送されて人気になってまんが化されたものだろう。私の家には60年にはまだTVがなかったので、63年からフジテレビで再放送された『とびだせフィリックス』を見たのだった。「♪フィリックスちゃん、おりこう猫ちゃん、いつでも黄色いカバンを持ってさ~」という主題歌だったと記憶している。魔法の黄色いカバンはどんな物にでもなるという万能の小道具だった。関崎志げ夫というまんが家は、名は見たことがあるが、他に作品は読んだことがない。もしかしたら、何かアンソロジー誌で読んだかも知れないが思い出せない。とにかくフィリックスを描くには適していなかったようで、本家には似ていない。鈴木出版から絵本版が何冊か出ているが、そちらの作者は大友朗、福田三郎、夢野凡天などで、関崎版よりはちゃんとフィリックスらしい。

ごろねこの本棚【20】(7)

  • ごろねこ
  • 2020/08/21 (Fri) 22:04:50
『恐怖鉄道』(沼田清)
日の丸文庫・1963年刊・A5判

表紙や背表紙には「世にも不思議な物語」とサブ・タイトルがついている。作者は「あとがき」で、これを「幻想的・神秘的な作品」と言い、こうした自分の作品が出版されたことに「たいへんなよろこびを感じて」いると書いている。みなもと太郎は「漫画の名セリフ」でこの作品を愛読していたと言い、しかし「ストーリーがよくわからない」と述べている。沼田は、さらに「あとがき」で「ファンタジックの世界では、私達の想像外の山があり川があり街があるでしょう。ですからもし私達がその世界に足を踏み入れたならば、どういうことになるでしょうか? おそらく、そこでは恐怖という文字が必要になってくるでしょう」と述べるが、この文章からしてよくわからない。要するに、別世界・別次元あるいはパラレル世界の恐怖を描いたと言いたかったのだろうか。坂本四郎は、脱線事故で死んだ父親の跡を継いで機関士になった。クリスマスの夜、四郎と友だちの美加の前に不思議な老人が現れ、突如出現した機関車に乗って北駅に行けと促す。北駅とは、皆が天国と信じて向かった駅だが、じつは墓場だったという伝説がある。老人は美加に乗り移って機関車を暴走させる。四郎の妹の雅子が教会で祈っていると、美加は元に戻り、また老人が現れる。老人の正体は悪魔で、北駅で四郎に会わせると父親に約束したのだった。悪魔の世界を暴走する機関車から、四郎と美加は脱出できるだろうか。
ストーリーはよくわからないとしても、クライマックスの暴走機関車の車上でのアクション・シーン描写が巧いことは間違いない。

ごろねこの本棚【20】(8)

  • ごろねこ
  • 2020/08/22 (Sat) 22:12:21
『トランペット男爵』(前谷惟光)
寿書房・1962年5月1日刊・A5判

ロボットが主人公を演じるのではない前谷作品。「トランペット男爵」は、もちろん「ほらふき男爵」のパロディ。トランペットもほらも吹くことで共通している。「ロボットほらふき男爵」としてロボットを主役にしてもよさそうだが、ロボットでは男爵らしさが出ないのかも知れない。戦争で、味方が撃った大砲の弾に乗って敵陣を視察し、敵の撃った弾に乗り換えて帰って来るといった本家にある「ほら」も使われている。狼と素手で戦って、口の中に手を突っ込み、はらわたから尻尾をつかんで狼を裏返してしまうなど、動物を使った残虐なギャグがけっこう多いが、これらは本家にあるものなのだろうか。
なお、この『トランペット男爵』に巻数表記はなく、本文118ページに9ページの『ロボ子さん』が収録されている。2008年にマンガショップで復刻されたとき(表題作は『ロボットカメラマン』)、『トランペット男爵』の第2巻も復刻され、第2巻があることを知った。ただ2巻分は63ページしかないので、一部の復刻か、あるいは原本に60ページ以上ある何らかの作品が併録されていたのだろう。

ごろねこの本棚【20】(9)

  • ごろねこ
  • 2020/08/23 (Sun) 22:06:54
『影の激突』(旭丘光志)
東京トップ社・1966年12月頃刊・A5判

旭丘光志は貸本から「少年マガジン」などの雑誌に移行してから『或る惑星の悲劇』『LET'S GO ケネディ』など硬派の作品を描いていた印象が強い。だが、まんがでは思うように表現できなかったのか、事情は知らないが、しばらくすると作家・ジャーナリストとして文章のほうへ行ってしまった。一方で、貸本時代にはかなりのまんがを描いており、40巻以上ある「渡り鳥シリーズ」、20巻以上ある「あさおか・ベスト劇画」などのシリーズがあり、他に「ハリケーン・ジャガー」や「異色作シリーズ」などもある。この『影の激突』は異色作シリーズの第3巻。アメリカのジェミニ18号からの応答がなくなり、志摩半島沖に落下するが、そこから人間も金属も腐蝕させるウィルスの感染が拡大する。一方、アメリカの水爆衛星が軌道から外れ、地球へ引き寄せられていた。日米の政府はそれを極秘事項として、秘密を知った者たちを諜報員に襲わせる。だが、ウィルスに感染したヤクザは、水爆衛星にわが身のウィルスを感染させて消滅させようと、新聞記者と協力して、新たにアメリカが打ち上げる衛星を乗っ取る。
この作品で納得できないのは、宇宙からのウィルスと、水爆衛星の事故と、新たな衛星の打ち上げとが無関係にたまたま起ったことだ。やはり、これらは関連していなければおかしいだろう。例えば、落下したジェミニからウィルスの感染が始まり、汚染地域を水爆衛星で攻撃しようとする。だが、ウィルスの治療法が見つかったので、水爆衛星を止めようとするが、コントロールが効かなくなる。そこで新たな衛星を打ち上げて、水爆衛星を消滅させようとする、などのように。そこがしっかりしていれば、ヤクザや新聞記者の人間ドラマはどう絡ませようと構わないだろう。

ごろねこの本棚【20】(10)

  • ごろねこ
  • 2020/08/24 (Mon) 22:07:00
『幽鬼の城』(小島剛夕)
つばめ出版・1967年2月頃刊・A5判

貸本まんがで一番人気のあった作家は小島剛夕である。いや、もちろん調査方法によって違いは出てくると思うが、ひばり書房が行った「全国単行本漫画作家の人気投票」で、昭和38、39、40年の3年連続(この3回しか行われていないようだ)小島剛夕が第1位だった。当然ひばり書房(つばめ出版は同会社)に描いている作家が有利になり、他社や雑誌に描いている作家には票が集まりにくくなるが、それにしても一つの指標にはなるだろう。実際、小島作品は絵もストーリーも抜群に巧かった。とくに顕著なのは、読者ページへの手紙や似顔絵の投稿に女性が多いことだ。普通、男性作家には男の、女性作家には女の読者が多いのだが、少女まんがでもないのに女性人気が高かったことがわかる。
その城は、前の城主が幕府への謀反の疑いを受けて自害し、今新たな城主が城の修復を行っていた。指揮を執るのは有名な城を幾つも築き、この城をも築いた黒阿弥だった。だが、黒阿弥は怪しげな工事を行い、また、妖気に覆われた城内では若君や家臣が死ぬなどの事故が続発し、城主もまた悪夢に悩まされていた。やがて、公儀から城を検分する使者がやってくる。だが、城主は錯乱し、謀反の疑いをかけられたまま、城に火をつけて死んでしまう。それが、前の城主の呪いのせいなのか、怪しげな工事に憑かれた黒阿弥の執念のせいなのかはわからない。

ごろねこの本棚【20】(11)

  • ごろねこ
  • 2020/08/25 (Tue) 22:10:24
『アコ行状記(1)ラーメンいっちょ!』(山田節子)
さいとうプロ・1965年刊・A5判

セツコ・山田の山田節子時代の作品。後の猫まんがとは違い、といって少女まんがのタッチでもなく、やはりキッチリとした貸本劇画の絵である。当時、さいとうプロにいたさいとうゆずる(後のダイナマイト鉄)と「ガール・ガールミステリー」という二人集のシリーズを出していたが、その頃のさいとうゆずるとは絵も似ていた。
いかにも「おのぼりさん」のいでたちで街に降り立ったアコは、偶然入ったラーメン屋で住み込み店員として働くことになる。住み込みの女子店員は3人いて、美人でボーイフレンドが多い栄子は、仮病を使ってデートしたのがバレて、もっと稼げる仕事をするといって店を辞めた。アコと気が合う敏子は遊ぶこともせず倹しくしていたが、田舎の母親の病気が悪化して入院費が必要になった。そのとき、店の金が合わないことがあり、敏子が疑われる。作家志望のしん子が、栄子のときも敏子のときもおかみさんに告げ口したのだ。アコは自分が犯人だと名乗り出て、店から出て行く。だが、皆が追いかけて来て、犯人は店の主人だったと告げ、店に戻るように懇願する。しん子も友だちや親がいないさびしさから告げ口をしたと謝り、栄子も店に戻ってきて、何もかも落着したようだったが、ある日、街でアコを見かけた女性が追いかけて店にくる。その女性はアコの家庭教師で、じつはアコは財閥のひとり娘で、行方知れずの母親を探すために家出をしたのだという。だが、アコは置手紙を残して姿を消した後だった。
おそらく全7巻だと思うが、7巻を持っていないので完結したかどうかは不明である。

ごろねこの本棚【20】(12)

  • ごろねこ
  • 2020/08/26 (Wed) 22:16:21
『しょっぱなの賭』(南波健二)
ひばり書房・1964年頃刊・A5判

南波健二も多くの貸本を描いていた。リアルタイムでは「タックル猛牛シリーズ」を読んだことは覚えているが、他は読んだかどうか覚えていない。「アクション・シリーズ」を描いていて、その中に「タックル猛牛」が含まれていたのか、あるいは、そちらは「攻撃(アタック)シリーズ」という戦争まんがになっていったのか、よくわからない。ともあれ、「タックル猛牛」は30巻以上、「攻撃」は20巻以上出ていた。両者とも東京トップ社からの刊行だったが、やがてひばり書房から新シリーズを出した。それが「危険屋ジャンプ獅子シリーズ」で、その第1巻が『しょっぱなの賭』である。「危険屋」というのは、どんな危険な仕事でも引き受けるということで、タックル猛牛の探偵とはちょっと違う。今回は油田火災を消火するために大量のニトログリセリンを、50キロの悪路をトラックで運ぶ仕事を請け負う。1953年の映画『恐怖の報酬』からヒントを得た設定だが、ニトログリセリンを強奪しようとするグループがいて、そのグループを捕まえようとする依頼主が、ジャンプ獅子たちをオトリにして、本物は別便で送るという話である。運動能力が高く、どんな危険も軽いノリで越えていくキャラは貸本劇画では人気があったのだろう。このシリーズも12巻ぐらいまで続いたようだ。

ごろねこの本棚【20】(13)

  • ごろねこ
  • 2020/08/27 (Thu) 22:26:40
『ほほえみし肖像』(新城さちこ)
金園社・1962年刊・A5判

新城さちこは、山本まさはるの実姉。私はリアルタイムで読んだ記憶はないが、山本まさはるの妻である矢代まさこが、新城の影響を受けたと何かで読んで、読んでみたいと思っていた。実際に読んだのはずっと後になってしまったが。この『ほほえみし肖像』は、それほど初期作というわけでもないと思うが、まだ絵がかなり不安定に見える。ただ、登場人物たちの心の動きが丁寧に描かれており、そこを矢代が学んだのかも知れない。
葉村家は、吝嗇で口喧しい高利貸しの父親の大助と、母を亡くした兄妹が暮らしていた。兄は父を軽蔑しながらも家には無関心で、妹の千絵は中学を卒業したら家を出て自立しよう考えている。横暴な大助のせいで家政婦が何人も辞めたが、大助が倒れたときに来た加納という家政婦は今までの人とは違った。千絵には母を思い出させ、父との仲を取り持とうとする。それは、自分の家庭が葉村家に似ていて、後悔したまま父と死別した過去があったからだった。大助の心も、加納の幼い娘の真湖と話すうちに和んでいった。ある日、加納の住む長屋が取り壊され、住人たちが追い出されることになる。大助は子供の頃、貧しさゆえに不当な苦しみを受けた経験を真湖に味わせたくなく、その長屋を買い取ることにした。だが、それを根に持った組の者たちが病身の大助を襲う。タイトルは、絵を描くことを反対されていた千絵が、父の写真が威張った顔のものしかないので、本当は優しかった心を表したいと描いた亡き「父の肖像画」のこと。

ごろねこの本棚【20】(14)

  • ごろねこ
  • 2020/08/28 (Fri) 22:11:28
『ごろっぺ(大あばれの記)』
きんらん社・1963年頃刊・A5判

山根一二三は貸本や月刊誌時代に活躍していた作家で、作品の雰囲気がのんびりふんわりしていた印象がある。とくに、フキダシの使い方が独特で、本来心内語を示すときに使うフキダシ(口とセリフを複数の○でつなぐ)を多用していた。まだフキダシの使い方が定まっていない時代の名残りかとも思ったが、その頃にそういう使い方をしている作家はいないから、意図的に使用していたのだろう。どういう効果があるかというと、実際に声に出したのかどうかわからないほどのつぶやきや、独り言のようなセリフに思えたり、たとえケンカであっても穏やかに語り合っているように思えたりして、どんな場面もほのぼのとするのである。代表作は『ごろっぺ』で、1956年から「おもしろブック」、60年から「日の丸」に掲載誌を移して62年まで連載した。いたずら者のごろっぺが偉くなろうと心に誓い、故郷の茶花村を後にタヌキを供にして日本全国を旅するという話。「ごろっぺ」という名は、語呂合わせのダジャレが頻繁に使われるからかと思ったが、そうではなかった。雷がゴロゴロ鳴る日に生まれたからだった。ちなみに弟のからっぺはからっ風のふく日に生まれた。なお、きんらん社の単行本は、第1集、第2集……とナンバリングしてあるものと、「あばれんぼうの記」「江戸日記」……と巻名があるものと2種類ある。「大あばれの記」はそちらの5巻目に当たり、6巻まであるのは確認している。どちらも同内容なのか、編集が違うのか、あるいは「おもしろブック」版と「日の丸」版の違いなのか、不明である。

ごろねこの本棚【20】(15)

  • ごろねこ
  • 2020/08/29 (Sat) 22:09:25
『怪獣ブラック』(佐藤よしろう)
東京トップ社・1965年頃刊・A5判

ルーマニアのトランシルバニア地方にドラキュラ城と並んで不気味なブラック城があった。そこには怪獣人間ブラック三世が千年も眠り続けているという伝説があった。そして、ついにある男が墓を暴いて、ブラック三世を蘇らせてしまう。……
佐藤よしろうも貸本劇画を数多く描いていた作家の一人である。私はリアルタイムでは読んだ記憶がないが、それは貸本以後、その名前を見ることがなくなったから忘れてしまったのかも知れない。この『怪獣ブラック』は「ヨシローフィクション」の第2巻だが、巻末には「スリラーシリーズ」第39巻『鉄道公安員66』の予告が載るなど、他にも多く描いていたことがわかる。
さて、2000年に刊行された「会津漫画研究会」と手塚治虫との関係を検証した『私たちの手塚治虫と会津』という本を読んでいたとき、その研究会の中から手塚のアシスタントをした人が5人出たと書いてあった。その1人に佐藤寿朗なる人物がいたが、この人が佐藤よしろうだった。貸本初期には短編を描きながら手塚を手伝い、66年から智プロで『マグマ大使』や『火の鳥』などを手伝ったという。その後、青年誌に北竜一郎名義で数多くの時代劇などを描き、コミカルな作品には三上タローの名を使ったという。佐藤よしろうというのは、ほんの一時期の名前だったのだ。

ごろねこの本棚【20】(16)

  • ごろねこ
  • 2020/08/30 (Sun) 22:17:18
『黄色いすずめ』(さいとうゆずる)
さいとうプロ・1966年2月頃刊・A5判

山田節子と『ガール・ガールミステリー』を出していたさいとうゆずるのシリーズ作。『黄色いすずめ』は、「青い夢シリーズ№3」で「かわい子ちゃんマーチ第8話」となっている。「青い夢」が単行本のシリーズ名でこれが3冊目ということ。「かわい子ちゃんマーチ」は親が遺産として残してくれたアパートを管理して暮らす4人きょうだいの話のシリーズで、第7話は『ボール君おばけ』という短編が「ゴリラマガジン」の36号に掲載されている。村咲家は女三人男一人の4人きょうだいで、物語の主人公は次女の千秋。そのアパート・月の木荘に新たに越して来たのは、老婆と4歳の男の子。男の子は知的障害児で、有名な女優の隠し子だった。女優の姉がこっそりと面倒を見ていたが、病気で死んでしまったため、事情を知った千秋たちが奔走する。初めは冷たく突き放す女優だったが、最終的には女優を引退して子供と一緒に暮らす道を選ぶ。たとえば、女優に冷たくあしらわれた千秋が、怒りに任せて芸能記者に真実を告げてしまうシーンがある。その後に女優が隠し子のいることを告白し引退するので、千秋のこの告げ口は意味がなくなってしまうが、千秋に何の反省もなく記者がどうしたかもわからず終わってしまうのは、もやもやする。他にも、老婆はどういう関係なのか、女優の姉はどうしてこっそりと行動していたのか、あるいは女優と双子なのかなど、作者はわかっているのかも知れないが、もやもやする設定や展開が多い。
さて、この後にさいとうプロを退社したさいとうはひばり書房で単独シリーズなどを発表するようになり、1970年には永島慎二が放り出した『柔道一直線』を「斉藤ゆずる」として受け継ぐことになる。これは永島の絵に寄せて描いていたが、70年代後半からは「ダイナマイト鉄」などの名で貸本時代とは変わった絵で野球まんがや実録まんがを描いていた。

ごろねこの本棚【20】(17)

  • ごろねこ
  • 2020/08/31 (Mon) 22:09:59
『腐ったダイヤモンド』(佐藤まさあき)
佐藤プロ・1964年刊・A5判

「日本秘密捜査官R-M1シリーズ」の第1巻。「007」シリーズのファンだという佐藤が描いた、国際犯罪を捜査するスパイの話。佐藤作品にしては明るい面もあり、全13巻をわりと気楽に楽しく描いているように見える。警視庁の秘密捜査班Rの第1号捜査官がR-M1で(殺しのライセンスを持っているのでMはMURDERの意かも知れない)、厳しい訓練を受けた捜査官である。後に「ボーイズライフ」に連載した『Zと呼ばれる男』『黄金の牙』は、このシリーズを描き直した作品だが、主人公のZは、暗黒街の超一流の殺し屋だった「竜」という男を死刑にし、蘇生させて捜査官にしたという設定なので、R-M1よりは暗い感じになっている。だが、本部が巨大観音像の地下にあることや、閣下(局長)の顔は同じである。R-M1の最初の指令は、国際的ダイヤ密輸団のルートの解明だが、ヨハネスブルグからイスタンブールへと黒幕を追い、結局密輸団を壊滅させる。それには、敵の女性に救われ、助力してもらうのだが、事件が落着した後、その女性と船上でいちゃついているエンディングは、映画の007シリーズのようだ。64年にはまだ映画は第2作までしか公開されていないが、どちらもそのようなエンディングだったと思う。なお、このシリーズは貸本版4冊分が、新書判(佐藤まさあき劇画叢書)になっていて、『腐ったダイヤモンド』も含まれている。

ごろねこの本棚【20】(18)

  • ごろねこ
  • 2020/09/01 (Tue) 22:09:22
『ユカの物語』(矢代まさこ)
若木書房・1964年2月頃刊・A5判

矢代まさこの「ようこシリーズ」は1964年の春から刊行されているので、その直前の作品となる。「ようこシリーズ」も必ずしも名作ばかりではないが、それでも少女の日常や心理の描写、あるいはファンタジックな構成などが魅力である。それらに比べると『ユカの物語』は、リアルでもなくファンタジーでもなく、「ようこシリーズ」の主人公であるようこたちと、ほぼ同じような表情、悩みや苦しみを抱えていても、ユカは「ようこ」になり損なっている。この話は、絵空事のミステリーとして読めばいいのかも知れない。
郊外の洋館でばあやと二人で暮らす少女ユカ。親友の美嘉とその兄の弘一が訪ねても寂しげな微笑みを浮かべる。1年前には、双子のユキと新進の歌手として活躍していたのに、今は歌も歌わず、ユキの行方もわからない。……そこからユカの追憶に入る。3年前、人里離れた山の中で母と暮らしていたユカとユキ。ユカは派手な都会に憧れていたが、ユキは山の暮らしと山犬のヒカルを愛していた。ある吹雪の夜、母とヒカルは遭難した美嘉を救助するが、母は死んでしまう。美嘉の父親はユカとユキを上京させ世話をするが、歌のレッスンを受けさせて双子の歌手としてデビューさせたいと目論んでいた。美嘉の心配をよそに二人はデビューして人気者になる。……だが、その後、ユカとユキに起こったこととは? その展開と結末をすんなりと受け入れるのは、ちょっと難しい。

ごろねこの本棚【20】(19)

  • ごろねこ
  • 2020/09/02 (Wed) 22:04:59
『地下大陸』(さいとう・たかを)
さいとうプロ・1967年刊・A5判

「週刊少年マガジン」1966年40号から43号まで4回にわたって連載した作品を単行本化したもの。ある日、日本海底農場開発研究所に二人の少年が、海底調査船マリン・カーを貸してほしいと訪ねて来る。少年たちは摩周湖に怪獣が現れた写真を撮ったので、その調査をしたいというのだ。呆れる所長を尻目に所長の息子とその恋人の新聞記者が、二人の少年と共に摩周湖の湖底調査に行くことになった。一行が湖底に洞窟を見つけ進入して行くと、陸地に出たが、そこは毒ガスが噴き出す怪獣たちの墓場だった。ちょうど毒ガスに苦しんで暴れる怪獣が入り口を崩し、一行は帰り道を失ったため奥に進むしかなくなった。やがて一行の前には、まるでジュラ紀のような地底世界が現れるのだった。
この話は、前に紹介した『ベリーファーザー』の第3巻「火の掟」でジュラ紀のような星に着陸する話を地底世界に変えただけのように見える。50号から『ベリーファーザー』のリメイクである『サイレントワールド』の連載が始まるので、『地下大陸』はそのためのテスト・ケースだったのだろう。

ごろねこの本棚【20】(20)

  • ごろねこ
  • 2020/09/03 (Thu) 22:11:20
『吸血鬼ドラキュラ1964』(長谷邦夫)
曙出版・1964年2月刊・A5判

「現代忍者シリーズ」の第3巻。今も忍びの術を伝える忍者たちの村に取材に来た記者が、吸血鬼に襲われる。昔、隠れキリシタンの村だった頃に殺された異人の墓があり、そこに宝が埋められているという噂を信じた男が墓を暴いた。そのせいで、吸血鬼だった異人ドラキュラが蘇り、ほとんどの村人たちに吸血ビールスが感染してしまったのだ。記者は、知り合ったえり子という女性に連れられ、ビールスを研究する分教所へ行こうとするが、ドラキュラにえり子をさらわれてしまう。村では忍者対吸血鬼の戦いが繰り広げられていた。大学から血清が届き、吸血鬼になったえり子たちは治癒し、他の吸血鬼はドラキュラを残し、山火事で死んでしまう。そして、えり子と記者はドラキュラを葬るために彼の眠る地下室へと向かうのだった。
アメリカのC級映画、というよりオリジナルビデオで、「ニンジャVS…」という作品が90年代以降に数多くあったが、「ニンジャVS吸血鬼」もありそうである。そういう意味で、このシリーズはかなり先を行っていたことになる。ただ、忍者が出てくる必然性は感じられないのだが。
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