ごろねこの本棚【16】(1)

  • ごろねこ
  • 2020/05/27 (Wed) 22:14:13
『もう一つの劇画世界②あすなひろし集・心中ゲーム』(あすなひろし)
ブロンズ社・1973年11月10日刊・A5判ハードカバー
『行ってしまった日々』(あすなひろし)
主婦の友社・1978年7月1日刊・A5判ハードカバー

もし、あすなひろしの単行本からお薦めの本を選ぶとしたら、「もう一つの劇画世界」の『あすなひろし集』にしたい。4章構成で、1章が「心中ゲーム」。これは「ビッグコミック」に連載された連作シリーズで、6話中4話が収録されている。残りの2話は単行本未収録となっている。この連作を完全収録した本はないので、4話読めるだけでも貴重である。2章には青年まんがが3作収録されているが、『300,000㎞/sec.』と『ジョージ・ワシントンを射った男』というあすな作品の中でも傑作が2作入っている。3章は少年まんがの代表作『ぼくのとうちゃん』を収録。1作ではもの足りないので、さらに『からじしぼたん』が入っていればよかったのだが。4章は『巣立ち』などセンチメンタルな掌編のドラマを3作。ある意味、一番あすな作品らしい。じつは2008年に刊行された『林檎も匂わない』もこれに並ぶぐらいの佳作を収録しているが、文庫なので、絵を見てほしいあすな作品ではマイナスになってしまう。ただ、この『あすなひろし集』は少女まんがが入っていないので、少女まんがを集めた『行ってしまった日々』で補完してほしい。これは主婦の友社の「ロマンコミック自選全集」の中の1冊で、とにかくカバー絵や口絵がよく、本文の紙質・印刷もよい。

ごろねこの本棚【16】(2)

  • ごろねこ
  • 2020/05/28 (Thu) 22:10:14
『ブルーセックス』(川本コオ)
青林堂・1973年9月20日刊・A5判
『ブルーセックス』(川本コオ)
青林堂・1979年1月20日刊・A5判ハードカバー

川本コオはもう一人のあすなひろしである。というのは、川本コオ(川本弘昭)が高校時代の同級生のまんが友だち(矢野高行)と共作するときのペンネームが「あすなひろし」であり、やがて作品傾向の違いから川本が「あすなひろし」から離脱したのである。矢野は「あすなひろし」名で少女まんがでデビューしたが、川本が青年まんが志向を持っていたためか、初期には青年まんがを描くときは「臼杵三郎」名を使っていた。ともあれ、川本コオはデビュー前にもう一人のあすなひろしがいると言われていたと、何かで読んだ気がするが、思い出せない。1971年に「COM」に『難破船』というあすな作品が掲載されたが、あすなひろしが急病のため、絵は川本コオが描いていた。まるで違うタッチだと思っていたが、意外と親和性が高かった理由は、後に知ったのだった。『ブルーセックス』の73年版は「現代漫画家自選シリーズ(27)」で、79年版は「青林傑作シリーズ(22)」だが、内容はまったく同じである。両シリーズで同内容というのはこの作品だけだと思う。思春期の性の目覚めや初体験に関わる物語を10編収録している。センチメンタルでノスタルジックな雰囲気はあるが、あすな作品よりは生々しさが強い。

ごろねこの本棚【16】(3)

  • ごろねこ
  • 2020/05/29 (Fri) 22:19:26
『遥かな町へ(上・下)』(谷口ジロー)
小学館・(上)1998年11月1日、(下)99年4月1日刊・A5判

「ビックコミック」の98年4月25日号から12月10日号に連載。谷口ジローというと原作付きまんがを多く描いていたが、私の好きな『ブランカ』などは原作はなかったので、また谷口ジローオリジナルのストーリーの作品を描いてくれないかなと思っていたら、あるときから、ほとんどオリジナル作品を描くようになった。絵のあまりのすばらしさに、どれも名作のように思ってしまうのだが、やはり私の好みはあって、一番好きな作品は『遥かな町へ』かなと思う。48歳のサラリーマンの男が、出張の帰りにふと故郷行きの電車に乗ってしまい、ついでにと若くして亡くなった母の墓参りをする。そのとき、地震のような衝撃を感じて、気がつくと34年前の春にタイムスリップしていた。意識は48歳のままだったが、体は14歳の中学生の自分に戻っていたのだ。故郷の町も家族も学校の先生や友人も、みな34年前のままだった。男は戸惑いながらも中学生としての生活を送り始めるが、その年の夏の終わりに父親が失踪したことを思い出す。男は、その理由を突き止め、何とか父親の失踪を止めようとする。思春期への後悔と懐古をもって、甘くてほろ苦い日々を追体験するという、おそらく誰もが切なくなるシチュエーションに、父の失踪というミステリアスな事件を絡めたストーリーに惹きつけられる。お薦めの谷口作品である。
なお、この作品はフランスで映画化された。もちろんまんがとはかなり違っているのだが、エッセンスはうまく取り入れていると思う。ラストに谷口自身も顔を見せている。

ごろねこの本棚【16】(4)

  • ごろねこ
  • 2020/05/30 (Sat) 22:11:57
『ラストコンチネント(1)(2)』(山田章博)
東京三世社・(1)1986年2月25日、(2)88年2月20日刊・A5判

山田章博は、イラストレーターでもあるので、何といっても絵に魅力がある。まんがでも1コマ1コマが1枚のイラストのようであり、しかも作品によってタッチも異なっている。ただ絵に魅力がありすぎるため、ストーリーが頭に入ってこないことも多い。山田作品のタイトルを見ても、どういう話だったかよく思い出せないのである。そんな中で、よく思い出せないことは同じだが、「昭和浪漫空想科学社会派冒険大活劇」と銘打たれたこの作品は、山田作品の入門としてはふさわしいのではないかと思う。2百万年前から地上の民と地底の民が覇権を争っており、過去に3度、地底の守護神アスゥによって地上の文明は滅んでいた。ところが1万2千年前の両者に友好の盟約が交わされていたのだが、今、その盟約を破棄しようとする地上の地球評議委員会なる組織と地底のアスゥを狂信的に崇める人々によって、地球は4度目の危機を迎えようとしていた。絵の魅力はもちろん、SFとしての面白さも味わえる作品だと思う。

ごろねこの本棚【16】(5)

  • ごろねこ
  • 2020/05/31 (Sun) 22:10:10
『臥竜解封緑 ナムチ』(高寺彰彦、共同原作・脚本協力・須永司)
アスキー出版局・1993年11月22日刊・A5判
『臥竜解封緑 ナムチ』(高寺彰彦、共同原作・脚本協力・須永司)
チクマ秀版社・2006年5月25日刊・A5判

ファンタジーが不毛の日本で、オリジナルのファンタジーを作ろうと高寺彰彦とアニメ演出家の須永司が構想を練った作品。だが、結局アニメ化は実現せず、高寺がまんがとして「グランドチャンピオン」に1992年8月18日号から93年6月1日号まで連載し、未完に終わった。『指輪物語』への共感から始まったというだけあって、この斬新で壮大な物語と、大勢の登場キャラのユニークさには目を瞠るものがある。ちなみに主人公のナムチはカッパなのだが、これは水木しげるの『河童の三平』をオマージュしているとのこと。描かれたのは「序章」と「青の城篇」で、ここまででも読み応えがあり、十分に面白いのだが、この後、「灰色の城篇」「黒の城篇」「赤の城篇」「銀の城篇」「黄金宮篇」へと続く構想だったとのこと。もし完結まで描かれていたら、まんが史上に残る傑作ファンタジーになったのは間違いないだろう。なお、チクマ版はカラー口絵や設定資料などを収録した完全版となっている。

ごろねこの本棚【16】(6)

  • ごろねこ
  • 2020/06/01 (Mon) 22:11:43
『パットマンX(1)(5)』(ジョージ秋山)
若木書房・(1)1968年12月25日、(5)69年4月25日刊・新書判

今日、ジョージ秋山氏の訃報を知った。5月12日に亡くなったそうだ。ジョージ秋山作品は雑誌掲載初期の『いじわるE』や『ガイコツくん』から読んでいた。それ以前にも貸本に本名の秋山勇二名義で作品を描いたり、師事していた前谷惟光名義の作品を描いたりしていたらしいが、そちらは知らない。『ガイコツくん』に続く『パットマンX』がヒットして人気まんが家になっていくわけだが、そのギャグは喧伝されるように「ほのぼのとした笑いと涙」などではなく、自虐と悪意だと思う。悪意に満ちた世の中でひたすらささやかな正義を標榜し、笑い者になる涙である。やがて、自虐は『デロリンマン』へと至り、悪意は『アシュラ』や『銭ゲバ』へと至る。「パットマンX」の名は「パッと現れ、パッと消える」からなのだが、マスクは「バットマン」を意識している。だが最初の3話はマスク上部に耳(というより角)がない。全5巻。

ごろねこの本棚【16】(7)

  • ごろねこ
  • 2020/06/02 (Tue) 22:10:14
『蜃気郎(1)(2)』(西岸良平)
双葉社・(1)1980年6月10日、(2)81年6月14日刊・B6判

西岸良平が、『夢野平四郎の青春』でビッグコミック賞佳作となりデビューしたとき、私はちょうどその号を買っていて読んだのだが、じつに驚いた。その作品が佳作だったことにである。唯一無二のデフォルメしたタッチとストーリーの組み立ては見事で、絶対に入選となってもおかしくない作品だと思えた。審査員には「ビッグコミック」初期の錚錚たる作家陣が名を連ねていたが、彼らがその作品以上の作品をいつも描いているとは思えなかった。ただそのユニークさは、もしかしたら短期間で燃え尽きてしまう才能かも知れないという危惧があった。今となっては、『三丁目の夕日(夕焼けの詩)』『鎌倉ものがたり』などを見てもわかるように、偉大なるマンネリといってもいいほど才能は持続している。西岸作品は基本的にはどれも人情話といえるのだが、私はとくにSFやミステリー要素のある話が好きなので、『蜃気郎』を薦めたい。蜃気郎とは、宝石や美術品を盗む怪盗(快盗)の名前で、盗みのためなら芸術のようなテクニックととんでもない経費を駆使して、決して人を傷つけず、むしろ犯罪に加担させた人は誰をも幸福にしてしまうという謎の人物である。「漫画アクション」に1979年から81年にかけて連載した作品で、元々がレトロな持ち味なので、『三丁目の夕日』のように思って読めばまったく古びていない。全2巻だが、じつは全話は収録されていない。蜃気郎の妹・黒猫やまとが登場する最終3話は、短編集『タイム・スクーター』に収録されている。

ごろねこの本棚【16】(8)

  • ごろねこ
  • 2020/06/03 (Wed) 22:27:30
『おしゃべり階段(1)(2)』(くらもちふさこ)
集英社・(1)1979年8月30日、(2)79年9月30日刊・新書判

「別冊マーガレット」1978年9月号から79年3月号まで7回連載。第1回の中学2年生から、7回の予備校生(5、6回のみ2回で高校3年生)まで各回1学年ずつの6年間を描く青春ドラマ。じつは学校生活を描いた青春ものでは、西谷祥子の『レモンとサクランボ』が一番好きだったのだが、この作品を読んでこちらも好きになった。まあ、どちらが一番ということはないけれど。これを読んだときは、『レモンとサクランボ』は『青い山脈』を読むほど古典という感じがしてしまった。今では40年以上前に描かれた『おしゃべり階段』も十分に古典なのだが、思春期の階段を次々とのぼっていく若者たちを描いていることで、その心情は古びていないはずである。もちろん、メインは思春期の男女の恋愛感情なのだが、この作品に限らず、くらもち作品はコンプレックスを持つ少女の心理を描くのが極めて上手い。ただし、少女まんがだから仕方ないのだろうが、男側から見ると、少年はいつもクールで大人過ぎるように思える。いやいや、男の方がもっとぐちゃぐちゃな心理になるだろーっ、と思ってしまうのだ。

ごろねこの本棚【16】(9)

  • ごろねこ
  • 2020/06/04 (Thu) 22:28:35
『眉引きの鉄(1)(2)』(数浜哲巳)
集英社・(1)1991年12月8日、(2)92年7月8日刊・B6判

1989年から92年にかけて「スーパージャンプ」に断続的に掲載された全12話の作品。諸国行脚する宮大工の南条鉄也は霊力ある神通墨で眉を引き、全国に跋扈する物の怪を退治して回る「ごおすとはんたあ」である。数浜哲巳という作者については何もわからず、作品は(少なくとも単行本は)これしか刊行されていない。トーンワークを駆使して写真的な人物を描いているので、イラストレーターが本職なのかも知れない。神通墨で眉を引くと、神通力を得て強靭な肉体へと変貌するというのは新しいが、ようするに化物や妖怪を退治する話に思えた。しかも第1話のタイトルが「紅邪水に水子が泣いた」で、70年頃に流行った笹沢佐保の『木枯し紋次郎』など新股旅もののタイトルを思わせる。新しい面もあるが、結局はよくあるパターンの話かなと思っていた。だが、章が進むにつれて惹き込まれていくストーリー展開になっていく。とくに最終話「時の迷宮」では、鉄矢に関わる重要な人物の謎と、神通墨の起源までが明かされるというラストが衝撃だった。

ごろねこの本棚【16】(10)

  • ごろねこ
  • 2020/06/05 (Fri) 22:06:59
『動物のお医者さん(1)(12)』(佐々木倫子)
白泉社・(1)1989年4月25日、(12)94年5月25日刊・新書判

「花とゆめ」に1988年1号から93年24号まで連載。私は面白いという評判を聞いて、単行本3巻か4巻が出た頃から読み始めた。これが一番最初に読んだ佐々木作品だったが、獣医学部の学生たちを描くというのが新鮮で、登場人物(及び登場動物)がすべて奇人変人(及び奇獣変鳥)というのも面白かった。佐々木倫子は資料を集め取材をして描くという方法を採っているらしいが、写真を見て描くような硬いタッチで、経験していなければわからないような深い、と同時に軽いエピソードを構成していくストーリーは、ユニークなコメディを生み出している。この当時、舞台となった北海道大学獣医学部(まんがではH大)は志望者が急増し、主人公が飼っているシベリアンハスキー犬は、ブームになるほど人気になった。私が一番好きなキャラは、主人公たちの先輩の菱沼聖子である。美女でありながらもはや人間離れしているほど変人度が高く、TVドラマ化されたときは和久井映見が演じていた。全12巻。ちょっと変な職場の変な人間関係を取材重視で描くのは、この作品以降佐々木の常套手段となった。

ごろねこの本棚【16】(11)

  • ごろねこ
  • 2020/06/06 (Sat) 22:13:52
『月虹ーセレス還元ー(前・後編)』(水樹和佳)
集英社・(前編)1982年6月20日、(後編)82年7月20日刊・新書判

SFまんがが、数多くの少年(青年)まんが作品で進化を遂げてきたことはわかりやすいし、そこに貢献した男性作家も大勢思い浮かぶ。一方で、忘れてはならないのが少女まんがにおけるSFの進化である。作家としては、やはり萩尾望都が一番に思い浮かんでしまうが、SF少女まんがは内面的な掘り下げが深く、センチメンタルやリリシズムの面では、少年まんがが太刀打ちできないように思われる。水樹和佳(後に水樹和佳子)も星雲賞を2回受賞するほどの女性SF作家である。ただし『月虹』は星雲賞受賞作ではない。このぶ~けコミックス版ではカバーに「セレス還元」というサブタイトルは付いていないが、扉絵には書いてある。また後にハヤカワ文庫になったときには『月虹ーセレス還元ー』になっているので正式にはそれがタイトルなのだろう。
舞台は2072年、今にも核戦争が勃発しそうな緊張が漂う地球。そこに遠い昔に消滅したセレスという星の記憶を持つ少女ソミューと、その記憶からセレスを還元するエネルギーを持つ男が現れる。二人はセレスが滅亡する前に現れた特殊能力者で、地球が亡びてしまうのなら、その前に地球を分解しセレスに還元しようというのである。だが、地球人として転生してきたソミューはセレス人としての役目よりも地球を救いたい気持ちを捨てられなかった。「ぶ~け」81年4月号から9月号に連載された作品だが、単行本化に際し50ページ加筆したとのこと。

ごろねこの本棚【16】(12)

  • ごろねこ
  • 2020/06/07 (Sun) 22:09:04
『綿の国星(1)(7)』(大島弓子)
白泉社・(1)1978年6月20日、(7)86年9月25日刊・新書判

大島作品には優れた短編作品が山ほどあるが、代表作となるとやはり『綿の国星』かなと思ってしまう。「LaLa」に1978年5月号から87年3月号まで不定期に連載。第1話は初め「大島弓子傑作集」として『夏のおわりのト短調』のタイトルに収録されていたが、後に『綿の国星』の続巻が出たのでそちらがタイトルになった。ただし第1巻という巻数は後にも表記されなかったと思う。道端で死にそうになっていたチビ猫が須和野時夫に拾われ、須和野家で飼われる日々を描く。もちろん人間と猫との、ときにメルヘン・タッチで詩情豊かな物語が紡がれているのだが、何といっても特色は、チビ猫は自分が人間になる猫だと思っているので、チビ猫の主観で幼女の姿で登場していることである。作者が実際に飼った猫をエッセイまんがにしたサバ・シリーズも人間の姿で登場していたが、チビ猫は猫耳を付けた幼女にしか見えない。したがって、猫を愛おしく思って読んでいるはずなのに、幼女を愛おしく思っている錯覚に陥りそうになり、いい歳をした男が読むには危ない気もする。花とゆめコミックスは全7巻で、21話までと番外編1話が収録されているが、最終22話『椿の木の下で』は収録されていない。そちらは全4巻の白泉社文庫に収録されている。他に、続編に当たるのか内容は忘れてしまったが、『ちびねこ』という本も持っているが、今見当たらないので見つけたときに紹介しよう。さらに『ちびねこ絵本』という絵本版もあるらしい。

ごろねこの本棚【16】(13)

  • ごろねこ
  • 2020/06/08 (Mon) 22:14:53
『赤色エレジー』(林静一)
小学館・1976年10月20日刊・文庫判
『赤色エレジー』(林静一)
主婦の友社・1978年7月1日刊・A5判ハードカバー

「ガロ」1970年1月号から71年1月号まで連載された林静一のまんが。71年の3月には青林堂の「現代漫画家自選シリーズ」の第1巻として単行本化されたが、それは持っていなかった。もちろんこの作品はヒットしたのだが、このまんがに感銘を受けたあがた森魚が72年4月に同名の歌をリリースし、そちらがヒットしたことで、よけいにこのまんがの知名度が上がったようだ。アニメーターをしながらまんが家を目指している一郎と、トレスをしている幸子の切ない同棲生活から別れまでを描く。72年には「漫画アクション」で上村一夫の『同棲時代』が始まり、TVドラマ、映画、歌にもなり、大ヒットとなる。歌は73年にかぐや姫の『神田川』もヒットした。その頃が貧しく若い男女が狭いアパートで一緒に暮らすという「同棲ブーム」のピークだったと思う。その先駆けである『赤色エレジー』は、林作品としては物語っているほうだと思うが、残るのは普遍的な一郎と幸子の暮らした時間と心情の断片である。一郎と幸子はいつの時代にもどこにでもいるのだろう。

ごろねこの本棚【16】(14)

  • ごろねこ
  • 2020/06/09 (Tue) 22:15:37
『珍遊記ー太郎とゆかいな仲間たちー(1)(6)』(漫☆画太郎)
集英社・(1)1991年3月15日、(6)92年5月13日刊・新書判

ギャグまんがは難しい。10年に1度とはいわないが、5、6年に1度、新しいセンスのギャグまんが家が誕生するが、そのセンスは長くても10年は続かない。たとえセンスが続いても、読者のほうが飽きてしまうのである。センスは人間性由来なので別のセンスに変えることはできず、もし斬新なギャグまんがを生み出した作家がいても、その寿命は10年ということになる。作家として延命するためには、ジョージ秋山のようにストーリーまんがに移行するか、浜岡賢次のように大いなるマンネリを甘受するしかない。漫☆画太郎(☆の部分は色々と変わることがあり、まったく別のペンネームのこともある)は1990年のデビューで、最初の連載作品がこの『珍遊記』だった。その新しさは、くどいほど描き込む下品な絵としつこいほど繰り返すシチュエーションと全然進まないストーリーである。新しいギャグまんがを読んだときはいつもそうなのだが、本当に面白かった。一応『西遊記』のパロディなのだが、それを期待すると大きく裏切られる。全6巻。私は画太郎作品は97年の『地獄甲子園』まで読んで離脱したが、その後もたまに読んでいる。

ごろねこの本棚【16】(15)

  • ごろねこ
  • 2020/06/10 (Wed) 22:19:37
『生霊(いきすだま)』(ささやななえ)
角川書店・1988年8月17日刊・新書判
『霊送(たまおくり)の島』(ささやななえ)
角川書店・1991年11月17日刊・新書判

ささやななえ(後にささやななえこ)は「りぼん」を中心に、心理描写の上手い作品を描いているといった印象で、シリアスもコメディもどちらも面白かった。そんな中、横溝正史の『獄門島』をまんが化したのが異色に思えたのだが、後に、ある時期、集中的にオカルト・サスペンス(ホラー)作品を描く時期があった。「キネマ旬報」にエッセイを書いていたほどの映画通であり、心理描写も上手いとなると、ホラーを描くのは、水を得た魚のように思えた。『生霊』には、『生霊』と『鉄輪(かなわ)』の女子高校生の嫉妬に端を発する2作が収録されているが、どちらも怖い。霊体が出現する演出は、それまでのホラーまんがの中で一番上手いのではないかとさえ思う。とくに『生霊』は傑作で、映画化もされた。『霊送の島』は島の禁忌の謎を追うオカルトものだが、『生霊』などとは違ってハッピーエンドになっているのに救われる。

ごろねこの本棚【16】(16)

  • ごろねこ
  • 2020/06/11 (Thu) 22:08:19
『ポケットの中の季節(1)(2)』(樹村みのり)
小学館・(1)1976年1月5日、(2)77年8月20日刊・新書判

樹村みのり作品は、繊細でナイーブな出来事を語ってくれるところがいい。とくに子供の心情に触れる作品は感傷的に読みがちなのだが、きちんと解き明かす理性があって、ちょっと違うかなと思うような作品でも言い負かされてしまう快感がある。『ポケットの中の季節(1)』が作者初の単行本で、「シリーズ・ポケットの中の季節」から3編。その他5編が収録されている。このシリーズは「別冊少女コミック」1974年10月号から始まったので、『贈り物』『見えない秋』『菜の花』の3編がそれだと思う。他は「りぼん」などに掲載した『病気の日』『海へ…』『カルナバル』『冬の花火』『跳べないとび箱』の5編である。2巻はシリーズから3編『菜の花畑のこちら側(1)~(3)』が収録されている。これは「菜の花畑」シリーズという別シリーズかと思っていたが、少なくともこの3編は「ポケットの中の季節」シリーズだったようだ。そのうち確認してみよう。他に『おとうと』『お姉さんの結婚』『ウルグアイからの手紙』の3編は「COM」などに掲載した「昇平くんとさちこさん」シリーズともいうべき作品。さちこ・昇平(主人公はさちこ)という姉弟を描くが、私も姉がいるので、ある意味、樹村作品の中でこのシリーズが一番好きかも知れない。
なお、『ポケットの中の季節』は1、2巻を合わせて、90年フラワーコミックス・ワイドとして全1巻で刊行された。だが、そちらには作品間に載っていた4コマまんが『かみなりジグちゃん』6編が載っていない。

ごろねこの本棚【16】(17)

  • ごろねこ
  • 2020/06/12 (Fri) 22:20:34
『マカロニほうれん荘(1)(9)』(鴨川つばめ)
秋田書店・(1)1977年11月10日、(9)80年2月10日刊・新書判

『珍遊記』の項に書いたように、大体5、6年に1度、新しいタイプのギャグまんがが誕生するのを見て来た。それらはギャグまんがに新しい時代を生み出して来たわけだが、私にとって今までで一番衝撃が大きかったのは鴨川つばめの『マカロニほうれん荘』である。鴨川は1975年のデビューで、77年から79年のおよそ2年半ほど「週刊少年チャンピオン」にこの作品を連載した。高校に入学し、新生活を始めるためほうれん荘に下宿した沖田そうじが、学校でもほうれん荘でも落第10回の膝方歳三(トシちゃん)と落第24回の金藤日陽(きんどーさん)と知り合い、破天荒な2人に振り回され、ドタバタを繰り広げるという話。ギャグまんがといっても、実際にはニヤッとする程度で、声を出して笑うなどということはそれまでなかった。だが、当時、このまんがを読んで、本当に笑ってしまっていた。だが、ギャグの勢いは急速に失われていく。ギャグはパターン化して笑えなくなり、作者自身も描く気をなくしていったようだ。それでも全9巻はギャグまんが史に残る作品といえるだろう。ただし末期の5本は(内容的にひどく?)収録されていない。80年には『マカロニ2』という続編が描かれたが、蛇足にすぎない。でも、いつか紹介しよう。

ごろねこの本棚【16】(18)

  • ごろねこ
  • 2020/06/13 (Sat) 22:16:21
『八つ墓村(1)(2)』(影丸譲也とJ・Kプロダクション、原作・横溝正史)
講談社・1977年12月15日刊(共に第4刷)・新書判

「週刊少年マガジン」1968年42号から69年17号まで連載。横溝正史の『八つ墓村』をまんが化した作品と聞いても何の驚きもないかも知れない。だが、横溝作品は本格推理ながら伝奇的怪奇的要素が強いこともあり、松本清張の社会派ミステリーの台頭の陰で60年代には新作は発表されず、忘れられた存在になっていた。そんなときに、横溝作品『八つ墓村』を影丸譲也に描かせようと考えた編集者がいたことは驚き以外の何ものでもない。よほどの横溝ファンだったのか、それとも影丸の絵に合った原作を探している結果だったのか。私は、この時点では小説のほうは読んだことがなく、『八つ墓村』とはこういう話だったのかと、面白く読んだ記憶がある。そして、おそらくはこのまんがが契機になったのだと思うが、71年から角川文庫で横溝作品が次々と刊行されるようになり、76年には『犬神家の一族』から始まる角川映画やTVドラマ化によって、空前のブームを迎える。そして、横溝正史はまた新作を執筆するようになるのである。なお、写真の講談社コミックス版は第4刷なので、カバーに(1)(2)と表記されているが、初版では「前編」「後編」という表記だった。また、影丸版『八つ墓村』は講談社文庫版やコミック・ノベルス版など数種類刊行されている。

ごろねこの本棚【16】(19)

  • ごろねこ
  • 2020/06/14 (Sun) 22:19:47
『岩鉄事件簿』(田中雅紀)
朝日ソノラマ・1978年12月11日刊・新書判
『ドジマンとその仲間たち』(田中雅紀)
朝日ソノラマ・1979年11月30日刊・新書判

田中雅紀は1963年には「冒険王」でデビューしていたらしいが、私が知ったのは、それより十年以上後の「ビッグコミック」か「マンガ少年」に掲載された読み切り作品だったと思う。『岩鉄事件簿』は「ビッグコミック」にシリーズ連載した刑事ものだが、「岩鉄」という刑事ではなく、「岩」と「鉄」という親子の刑事がコンビで事件を解決していく。9話収録されているが、第1話「白と黒の譜」が鉄にとっては初仕事となっている。『ドジマンとその仲間たち』は「マンガ少年」に連載。7話収録。どちらも全話を収録したかどうかは不明。「岩鉄」は刑事ものなのでけっこう凄惨な事件も扱っているが、「ドジマン」のほうは学園もので、読書部に居候している推理クラブの仲間たちの話。田中作品の主人公は飄々・淡々としているが、作品全体のタッチも飄々・淡々としていて、独特な味わいがあって好きだった。それでいて各話きちんとミステリーになっているのがよかった。作者は手が不自由だったとのことだが、それで寡作になっていたのかも知れない。田中作品は他に2冊持っているので、いずれ紹介しよう。

ごろねこの本棚【16】(20)

  • ごろねこ
  • 2020/06/15 (Mon) 22:19:20
『大平原児/黒い黒い谷』(川崎のぼる)
コダマプレス・1966年12月5日刊・新書判
『大平原児/黒い黒い谷(完結編)』(川崎のぼる)
コダマプレス・1967年6月15日刊・新書判

川崎のぼるは、山川惣治の絵物語『荒野の少年』を原作にして『荒野の少年イサム』を描いたので、『大平原児』も小松崎茂の同題絵物語を原作にしたのかと思ったがそうではないようだ。ただ、小松崎作品へのリスペクトがあることは間違いない。『大平原児』は「少年ブック」に1963年から67年にかけて連載された作品。主人公はチャーリーという名のガンマンで、読み切り作を含めて全8話あるが、それぞれ独立した話として読むことができる。残念ながら全話は単行本化されていない。便宜的に話数をつけて説明すると、1話「まぼろし谷の人々」、3話「血ぞめの拳銃」、6話「午前0時の決闘」は単行本未収録。2話「無法者の道」、4話「死の街道」、7話「騎兵隊」は当時人気まんがの総集編を載せていた「別冊少年ブック」で、それぞれ総集編が掲載され、また、2・4話は秋田書店のサンデーコミックス版『大平原児』に収録された。8話「保安官志願」は朝日ソノラマのサンコミックス『死の砦』(西部劇短編集)に収録されている。そして5話「逆しゅう」が「黒い黒い谷」と改題され、この2冊に単行本化された。白人に襲われ肉親を殺されたインディアンのサッチモは白人への復讐を誓うが、それに加勢する謎の牧師と、逆にインディアンを討伐しようとする白人たちの戦いを描くが、その舞台となるストックタウンに仇敵ブラック・ホースを探し求めて早撃ちガンマンのチャーリーもやって来る。
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