『月虹ーセレス還元ー(前・後編)』(水樹和佳)
集英社・(前編)1982年6月20日、(後編)82年7月20日刊・新書判
SFまんがが、数多くの少年(青年)まんが作品で進化を遂げてきたことはわかりやすいし、そこに貢献した男性作家も大勢思い浮かぶ。一方で、忘れてはならないのが少女まんがにおけるSFの進化である。作家としては、やはり萩尾望都が一番に思い浮かんでしまうが、SF少女まんがは内面的な掘り下げが深く、センチメンタルやリリシズムの面では、少年まんがが太刀打ちできないように思われる。水樹和佳(後に水樹和佳子)も星雲賞を2回受賞するほどの女性SF作家である。ただし『月虹』は星雲賞受賞作ではない。このぶ~けコミックス版ではカバーに「セレス還元」というサブタイトルは付いていないが、扉絵には書いてある。また後にハヤカワ文庫になったときには『月虹ーセレス還元ー』になっているので正式にはそれがタイトルなのだろう。
舞台は2072年、今にも核戦争が勃発しそうな緊張が漂う地球。そこに遠い昔に消滅したセレスという星の記憶を持つ少女ソミューと、その記憶からセレスを還元するエネルギーを持つ男が現れる。二人はセレスが滅亡する前に現れた特殊能力者で、地球が亡びてしまうのなら、その前に地球を分解しセレスに還元しようというのである。だが、地球人として転生してきたソミューはセレス人としての役目よりも地球を救いたい気持ちを捨てられなかった。「ぶ~け」81年4月号から9月号に連載された作品だが、単行本化に際し50ページ加筆したとのこと。