『ヒルコ/妖怪ハンター』(監督・塚本晋也、出演・沢田研二)
松竹・1991年5月公開・2021年Blu-ray発売
『妖怪ハンター』の第1話「黒い探求者」に第2話「赤い唇」の要素を加えて映画化した作品。昔、VHS時代にレンタルで見たことがあったが、夜や地下の場面が暗くて、かなり見づらかったという印象があった。このblu-rayで見ると、暗いシーンでもはっきりと見えるし、昼のシーンの田舎の風景も美しい。VHSで見たときより、倍は面白く感じた。
原作の「黒い探求者」は、比留子古墳を研究していた八部という郷土史家が石室で首なし死体で発見され、息子のまさおから頼まれた稗田がその謎を調査するという話。「赤い唇」は、地味で真面目な優等生の月島令子は中学で不良グループのいじめの対象だったが、ある日を境に派手な赤い唇の少女へと変貌し、彼女の周りでは次々と人が死んでいくという話。彼女は朱唇観音に封じられていた魔物に取り憑かれ、その唇から発せられた言葉には誰もが従わずにはいられなかったのだ。
映画は、八部は稗田の亡き妻の兄で中学教師をしている。息子のまさおはそこの中学生で、同級生の月島に密かに想いを寄せている。というように登場人物間に関係がある。原作の稗田は冷静で知的なキャラクターだが、映画では生真面目だがドジな性格で、そこが一番の違いである。また、妻を自分の過失で亡くしたと思って苦しんでいることが明かされるが、その苦しみを乗り越えることが映画のテーマに関わっているにせよ、原作の稗田から妻がいる雰囲気はまるで感じられないので、妻のエピソードは余計だと私には思えた。
異端の考古学者・稗田礼二郎は、亡き妻の兄で中学校教師の八部から、悪霊を鎮めるために作られたと思われる古墳を発見したと聞く。それは稗田の学説を立証する古墳であった。だが、八部は古墳を調査中に教え子の月島令子と共に行方不明となった。八部家を訪ねた稗田は、八部家が代々村を守る家柄であり、家に伝わる「冠」を八部が持ち出していたことを知る。八部の息子のまさおは二人の友人と共に行方不明の父と令子を探しに、夏休み中の学校に忍び込む。古墳は学校内のどこかにあるのだ。だが、令子は化物となっており、友人たちは殺されてしまう。まさおは稗田と合流し、稗田の妖怪退治の武器を手に、校内を探索する。
映画の中学校のシーンは、原作にはまったくないのだが、夏休みの夜、学校で化物と戦うというのは、数年後にブームとなる「学校の怪談」を先取りした感もあり、面白い。
稗田とまさおは八部のノートから、古墳の石室の奥へ続く入口の呪文のありかを知る。奥には無数の化物(ヒルコ)がいる虚無の空間が広がっていた。そして八部が開けてしまった入口からヒルコがこちらの世界に出ようとしていると考えた稗田は、八部が持ち出した「冠」を取り戻すため入口を開ける呪文を唱え、まさおと共にヒルコのいる空間へと入る。無数のヒルコが二人に襲いかかるが、ヒルコとなったはずの八部や令子、友人たちが盾になってくれた隙に呪文を唱え、手に入れた「冠」の力で撃退して、入口を封じるのだった。
この映画で最も注目されるのは、稗田礼二郎役の沢田研二だろう。塚本監督は、稗田役は岸田森以外にはあり得ないといわれていたが、すでに故人なので、誰からも文句の出ないキャスティングにした、と述べている。沢田はそれまでにコントやコメディも多くこなしていたが、映画では『太陽を盗んだ男』や『魔界転生』のイメージが強い。原作の稗田の雰囲気ならともかく、ドジな稗田を演じるのは意外だった。だが、沢田が出演したことで、この映画の魅力は確実に増していると思う。映画公開後に描かれた「妖怪ハンター」シリーズの『蟻地獄』で、稗田の講義を受けた女子大生たちが、「ねえ、稗田先生って沢田研二にちょっと似てない?」「え……どこが…?」と会話を交わしている。確かに「どこが?」なのだが。